X線分光撮像衛星XRISMに搭載されるミッション機器の一つ、Xtendの開発チームのメンバーへのインタビュー、前編です。今回は、下記のXtendチームの若手メンバー3人にお話を伺いました。(所属などは、2022年11月23日現在のものです。)
野田 博文 (大阪大学大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻,助教)
小林 翔悟 (東京理科大学 理学部第一部 物理学科 助教)
金丸 善朗 (宮崎大学 農学工学総合研究科 森研究室 博士課程3年)
Xtendの開発に携わることになった経緯やどんな仕事を担当されましたか?
野田)大学院時代、ASTRO-HのハードX線およびソフトガンマ線(エネルギーが約5 – 80 keV および60-600keV)の検出器の製作に携わっていました。その後、理研の研究員として ASTRO-H のX線マイクロカロリメータ(SXS)の開発に参加し、東北大学でXRISM搭載のResolveの開発に関わり、2016年10月から大阪大学(阪大)の助教という立場でXtendの開発に従事するようになりました。
東北大学から阪大に移るときは、X線CCD検出器の総本山でもある阪大に行くからには、「全身全霊でCCDに取り組む」という意気込みで着任したのを覚えています。
余談ですが、大学院以降、ハードX線の検出器から、ソフトX線(エネルギーが約0.4 – 12 keV)のX線マイクロカロリメータ、X線CCDの開発に関わることになり、ASTRO-Hの4つのミッション機器全てに携わったことになります。コンプリートしたのは、私だけではないでしょうか(笑)。
2018-2020年は、Xtendのフライト品となるCCD候補12個から搭載する素子をスクリーニングし、その後の性能評価試験や地上キャリブレーション試験などのフライト品の試験を担当しました。試験においては、セットアップから実施までリードする役でした。
一方、2021年からは、主に電荷異常対応です。異常電荷が侵入したとしてもCCDを問題なく動作させるための新しい駆動モードを用意するなど、対策を進めてきました。今でも電荷異常の原因は完全には究明できていないので、引き続き原因を探るための実験を頑張っているところです。
小林)私は博士号を取得した後、京都大学(京大)で研究していましたが、まさに阪大と京大がSXI (Soft X-ray Imager)の双璧で、「京大にいるならやっぱりSXIやろ」、という思いでXtendに関わることになりました。
野田)CCDは歴史が深い。常深先生(注1)が先駆者ということもあり関西が強いのです。
注1:常深 博(大阪大学大学院理学研究科 名誉教授)。専門はX線天文学,宇宙高温プラズマ,X線検出器開発。
小林)私は学生のとき、ASTRO-Hにほぼすべてを捧げて開発に携わってきました。大変残念なことに、ASTRO-Hは運用を断念してしまったので、XRISMは絶対に成功させたいという意地もあって、XRISMプロジェクトに参加しています。
XRISMプロジェクトには、先程言及した京都大学時代から始まり、その後現在の東京理科大の助教という立場に移ってからも継続して携わっています。野田さんと同じで、Xtendに関わる前は、軟X線を撮像するCCD検出器の経験は全くありませんでした。ずっとハードX線検出器を研究開発する人間でしたから、軟X線の検出器とは色々勝手が違って最初は戸惑いもありました。
例えば、ハードX線は検出器の受光面に何かが多少付いても透過するのでコンタミ(コンタミネーションの略。汚染)は、あまり気にしません。そういう感覚でしたから、Xtendに関わるようになった当初は、ソフトX線の検出器はこんなにコンタミを気にするのかと、びっくりでした。CCD受光面が汚れると検出器の効率が悪くなります。そのためソフトX線の検出器は、非常に気を遣って、コンタミ対策を施すのです。そんな私でしたが、コンタミ防止・対策担当です。慎重に、コンタミ対策をおこないました。現在は、軌道上での運用手順の整備・確立を行っています。
金丸)宮崎大学 博士課程3年の金丸です。今の研究室に入ったのは、学部生のときに森さん(注2)の講義を受けたのがきっかけです。森さんは当時、講義の際に ASTRO-Hのジャケットを着ていて、背中に描かれているASTRO-Hのシルエットをこれでもかと見せつけていました(笑)。もともと宇宙・天文関係の研究をしたいと考えていて、天体解析だけでなく大学院生が行っていたASTRO-H CCD のキャリブレーションも面白そうだと思ったので、学部4年生から森研究室で研究を始めました。
注2:森 浩二 (宮崎大学 教授、Xtend PI)。Xtendチーム座談会参照。
ASTRO-Hのデータ解析が落ち着いた後、Xtendを開発することが決まり、チームに加わりました。
最初は、新CCDの仕様決定に関する性能評価を行い、続いて、CCDのスクリーニング・セレクション試験のデータ解析を主に担当しました。そこでは、CCDが基準を満たしているか、どの素子を搭載させるかといったことを調べました。そして、衛星搭載CCDのキャリブレーションも研究室総出で担当しました。電荷異常でも、データ解析を行いました。
Xtendの開発中、エンジンがかかった瞬間や印象に残っていること、苦労したことはありますか?
野田)フライト品候補のCCD素子を浜松ホトニクスから受け取って、初めて性能確認する際は、受け取る前からエンジンかかってました。
阪大着任1年目ということもあり、「フライト品を扱うシステムに不具合があってはならん」ということで、気合いがはいりました。
以前はResolveにいたのですが、心臓部のセンサはNASA開発品で触れることはありませんでした。一方、阪大ではXtendのCCD素子そのものを触り、その緊張の度合いはすごいものがありましたが、Xtendにいないとできない貴重な経験ができたと思っています。
一方、最も印象に残っているのは、電荷異常です。修論発表会中に、異常が発生したという電話がかかって来て、試験現場に駆けつけました。初見の印象は、「何じゃこりゃ?」です。
考えられるあらゆることを試しても異常事象が解決できなかったので、スゴイ強烈な印象です。
小林)同じく、エンジンかかったのは、フライト品に触れた時。コンタミ管理ということで、筐体を一番最初に触ったのは、たぶん、私。とうとうフライト品が来たかということで、エンジンがかかりました。
そして、一番強烈に印象に残っているのは、私も電荷異常です。
電荷異常が起こったのは、私が検出器の組み上げ後に行う性能評価試験のシフトに入っていた時でした。試験は滞りなく進むのが常です。が、異常が起きた瞬間、ASTRO-Hで経験した異常事象の場面が走馬灯のようによみがえり、冷や汗ものでした。試験の手順書も自分が作ったので、「自分が手順を何か間違えたか」、など、いろいろ考えをめぐらせました。
でも、今思えば、地上で起きて良かったと。地上であれば、軌道上よりも多くの手法で原因を究明できますから。
金丸)私がエンジンかかったのは衛星搭載CCDを決めるスクリーニング・セレクション試験です。当時は、大学の同期・後輩2人と一緒にデータを解析していました。彼らは民間企業に就職しましたが、今でも会って話すと毎度そのときの話が出るくらい大変でした。
漏れ抜けの無いように事前準備をしていたつもりでしたが、生データを扱うのでやっぱり想定外のことが起きるし、そのつど原因を丹念に調べる必要がありました。もう寝る間を惜しんでの作業です。でも、やりがいもあって、今振り返ると楽しい思い出です。
私は学生という立場ではありましたが、試験の合間などいろんなタイミングで、スタッフの方含め、雑談も交えつついろんな話ができたのは非常にありがたかったです。
(後編につづく)