これから3回にわたって、X線分光撮像衛星XRISMに搭載されるX線CCDカメラ、Xtendの開発メンバーへのインタビューをお届けします。登場するのは、冨田 洋さん(JAXA)、森 浩二さん(宮崎大学)、中嶋 大さん(関東学院大学)、吉田 鉄生さん(JAXA)です。
―Xtendは2022年2月に開発完了し、無事に衛星システムへ引き渡されました。今のお気持ちは?
冨田)一区切りついた、一つの仕事をやり終えた、という気持ちです。もちろん打上げに向けて次の仕事がまだまだあるので、今後に向けて気持ちを引き締めたい。
森)一年前を振り返ってみると、「よくここまでたどり着いたな」という気持ちです。一年前、ASTRO-Hでは経験しなかった異常事象が起こりました。まさに青天の霹靂で、どうしたものかと天を仰ぐ気持ちでしたが、チーム一丸となって事にあたり解決策を見出し、ようやく、ここまでたどり着けたという思いです。
それから、Xtendチームをずっと率いてくださっていた林田さん(注1)がお亡くなりになったこともあり、開発への思いが強くなった一年でした。
今は、一区切りついたところですが、ひと呼吸して、気を引き締め直して、これからの作業に臨むつもりです。
注1:林田清氏。XtendのInstrument PIとして2021年度までXtendチームを率いた。
中嶋)ハードウェアもソフトウェアも準備を整えることができ、開発において大きな区切りを迎えることができました。
これまで、要素ごとに試験、システムとして組み上げて試験、という過程を繰り返してきました。XRISMの開発が始まったのが5年前。そこからとても長かった、やっとここまでたどり着けた、という気持ちでいます。お亡くなりになった林田さんの思いも載せて作り上げた、という気持ちもあります。
吉田)私が開発に携わったのは、2年前からです。今思えば、あっという間の2年間でした。2年前の時点で、私には宇宙でX線を観測する装置についての素養や開発経験はありませんでした。それで、一つずつ知識や経験を積み上げながら開発してきました。
Xtendの開発が一段落しましたので、今後は、Xtendと並行してSOTの作業も行うことになっています。そちらでも精一杯取り組みたいなと思っています。
中嶋)Xtendチームに属しているメンバーやそれに限らず、これまでにX線CCDに関わった人誰にとっても、XRISMのXtendは集大成。みんなが思い描いていた、日本のX線CCDを自分たちがカメラとして作り上げるということを実現したものです。
学生の頃の1つ上の先輩は、今、浜松ホトニクスでCCDを作っています。メーカーでXtendに貢献頂いている方にとっても、集大成。軌道上でよいデータがとれるのが今から楽しみです。
―皆さん、ここまでたどり着いたという安堵と今後に向けた引き締めて、と言った感じでしょうか。ところで、皆さんはどのような経緯でXtend開発に携わることになったのですか?
冨田)私の場合は、ASTRO-HのSXI (Soft X-ray Imager、軟X線撮像装置)の開発に携わっていました。当時は、PO室(注2)にいて、システムズエンジニアリングはどうするか、プロジェクトをどう立ち上げるか、といった業務を担当していました。PO室の業務を通して、それを実際のプロジェクトで使ってみたいという思いが強くなっていきました。
ちょうどそのときの上司が現在、XRISMでプロジェクトマネージャをしている前島さんという縁もあって、XRISMに来ないかと声かけてもらったのがきっかけです。
実は、学生時代から20年以上、X線天文に関係する仕事をしています。やりがいもありますし、この業界に恩返ししたいという気持ちもありました。Xtendに参加できてよかったです。
注2:PO室(注1)は、宇宙科学プログラムオフィスの略称。2011年4月にJAXA宇宙科学研究室に設置された。詳細は、ISASニュース No. 361を参照 https://www.isas.jaxa.jp/j/isasnews/serial/jijo/201104/5.shtml。
森)私は、大学院の頃からX線天文衛星に搭載するCCDカメラの開発に携ってきました。「すざく」というX線天文衛星にもX線CCDカメラが搭載されましたが、ちょうど打ち上げ前の開発時期は、私は海外にいて立ち会うことができませんでした。日本に戻ってきてしばらくたったころに、次の ASTRO-H (「ひとみ」)でもX線CCDカメラを搭載するという話になり、そこに誘っていただいて今に至っています。
XRISM に搭載するX線CCDカメラは、純国産。しかも、多くは大学の実験室で作りあげてきたものです。大学で作っている、大学でも頑張れる、というのがXtendの魅力の一つだと思います。
中嶋)学部の卒業研究のテーマを選ぶ際に、これはおもしろそうだと思ってX線天文の研究室に入ったのがきっかけです。その時の研究は「すざく」につながり、その発展版としてASTRO-H、さらにその延長でXRISMに関わっています。
吉田)きっかけは、当時のPI (Principal Investigator) の林田さんから突然メール来たことです。「衛星開発してみない?」と。 2019年10月のことでした。
もともとX線天文学を専攻していたので、もちろん林田さんのお名前は存じていましたが、面識はなかったため、突然のお誘いに軽く困惑したことを覚えています。
冨田)当時のPIだった林田さんが、Xtendに深くかかわってもらえそうな人を探していた時期ですね。いろんな人の情報収集をして、リクルートしてました。その中に吉田さんがおられたのですね。
吉田)お誘いを頂いたときはX線天文学から離れた業務をしていたので、もう一度X線天文学に関わりたいという気持ちが芽生えました。たまたま筑波宇宙センターに通える距離に住んでいたこともあり、Xtendチームに飛び込むことにしました。
―森さんはsub-PIに就任されていますね。
冨田)XRISM立ち上げの際、ASTRO-H開発時の主要メンバで話し合って、PIは林田さん、林田さんの指名で森さんがsub-PIになったのでしたね。
森)私は普段、宮崎県にいます。地方にいる人間がチームの統括をするっていうのは、一昔前なら想像すらできなかったことですね。「フライト品が近くにあって、人や情報が集まるところにいる人がPIをやるべき」というのが昔の感覚でしたから。
冨田)誰から見ても、森さんがそのポジションにふさわしいと思っていましたよ。
森)現在は情報へのアクセスや出張のしやすさなど、昔と比べると全然違う。そういう背景があるからこそ、今の時代だからこそ、遠くにいて、地方からも貢献できていると思っています。
(その2につづく)