国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、X線分光撮像衛星(XRISM)について衛星全体および搭載されているミッション機器等の機能確認を実施し、初期機能確認運用から定常運用に移行しました。
今後の定常運用段階では、まず初めに衛星に搭載された観測機器の特長を活かす天体観測や、観測精度を高めるための較正・初期性能検証を実施します。その後、世界中の研究者からの観測提案に基づいた天体観測を開始します。
初期機能確認運用にご協力、ご支援頂きました関係各方面に、改めまして深甚の謝意を表します。
XRISMは、当初の目標を上回る分光性能など、優れた機器性能を軌道上で達成しており、今後、様々な新発見がもたらされると期待されます。以下では、初期科学観測データの一部をご紹介します。
2024年1月5日開催 XRISM記者説明会
初期科学観測データ
図1にXRISMが搭載する軟X線分光装置(Resolve :リゾルブ)で取得したペルセウス座銀河団中心部のスペクトルを示します。ペルセウス座銀河団は地球から約2億4千万光年の距離に位置します。そしてX線で最も明るく輝く巨大な銀河団(注1)です。ペルセウス座は、「W」の文字の形で有名なカシオペア座のすぐ隣にあります。(図1の高解像度画像:JDAへのリンク)
Resolveによる精細なX線スペクトルから、プラズマの温度や速度を精密に測定することで、宇宙の力学的進化を支配する暗黒物質の分布や動きがわかります。すなわち、銀河団がどのようなプロセスで作られ、今後どのように進化するのかを明らかにできると期待されます。
図2は、XRISMが搭載する軟X線撮像装置(Xtend :エクステンド)で取得された超新星残骸SN 1006のX線画像です。この天体は西暦1006年、すなわち、紫式部や藤原道長が活躍した時代に爆発した超新星(注2)の残骸です。おおかみ座の方向、地球から約7000光年の距離に位置します。SN 1006は爆発から1000年あまりの時をかけて、直径65光年もの大きな球状の天体へと成長し、現在も秒速5000キロメートルの速さで膨張し続けています。(図2の高解像度画像:JDAへのリンク)
超新星残骸となった現在のSN 1006は、見かけ上の大きさが満月とほぼ同じで約30分角の視直径を持ちます。Xtendの広い視野のおかげで、撮影画像の中にすっぽりとこの天体を収めることができました。このデータから、爆発の際の核融合反応によって作られた元素の量や、残骸が膨張する様子を詳しく調べることができます。
ファーストライト以降に得られた科学観測データの一部について研究者向けウェブサイトで公開しています。これは、観測提案を検討する世界中の研究者が、XRISMの性能を正確に把握することで、よりよい提案に繋げていただくことを目的とします。今後の観測成果については、随時、ウェブサイト等でお知らせします。
XRISMプロジェクトマネージャ 前島弘則のコメント
衛星システムと地上システムの初期機能確認を完了し、いよいよ定常運用として科学観測を開始します。ファーストライトでは驚くべき観測性能を目の当たりにしました。これからX線国際天文台として多くの天体を観測し宇宙の謎に迫りますのでご期待ください。
XRISMプリンシパルインベスティゲータ(研究主宰者) 田代信のコメント
いよいよ科学観測が始まります。まずは半年間、初期性能確認観測を行います。XRISMチーム一同、軌道上較正を慎重にすすめながら、科学成果の公表をすすめて参ります。その後、今年8月ごろからは、世界中の研究者から公募した観測提案に基づいた観測もはじめる予定です。公開天文台として貢献できる日を心待ちにしています。
注1:銀河団は、多数の銀河が寄り集まった天体です。銀河団は、直径1千万光年にも及び、「宇宙最大の構造」とも呼ばれます。多数の銀河を1カ所に引き寄せているのは、「暗黒物質」と呼ばれる未知の物質による重力です。この重力は、銀河だけでなく、宇宙が生まれた直後に作られた水素ガスも引き寄せます。引き寄せられた水素ガスは、温度が数千万度の超高温プラズマとなり、X線で明るく輝きます。
注2:超新星は、大質量星や白色矮星が起こす大爆発により突然明るく輝きだす天体のことです。
SN 1006は白色矮星が起こした大爆発だったと考えられています。白色矮星は、太陽のような恒星が寿命を迎えた後に残される高密度天体です。白色矮星が別の星と連星を成す場合、相手の星からの物質降着などの影響を受けて、白色矮星の内部で核融合暴走が起こり、そのエネルギーで星全体が爆発します。