X線分光撮像衛星XRISM │ JAXAX線分光撮像衛星XRISM

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インタビュー エンジニアが語る! 機器開発の”クール”な魅力

今回お話を伺ったのは、宇宙機開発で頼れるメーカの一つ、住友重機械工業株式会社所属の吉田誠至さんです。吉田さんは、住友重機械工業株式会社 産業機器事業部医療・先端機器統括部設計部量子応用グループの主席技師でいらっしゃいます。

XRISMの観測機器の一つ、ResolveはX線の検出器を0.05Kまで冷やします。住友重機械工業様には検出器を冷やすためのシステムのうち真空容器、液体ヘリウム容器、冷凍機を組み合わせたクライオスタットの開発と製造などをお願いしました。このクライオスタットで、検出器の心臓部にあるX線検出器と断熱消磁冷凍機を1.2Kまで冷却します。そして、断熱消磁冷凍機でX線検出器を0.05Kまで冷却するのです。クライオスタットは、断熱消磁冷凍機の排熱を吸収する役割ももっています。

エンジニアの仕事の面白みを教えてください。

自分で設計したモノが形になって動くのは楽しいです。もちろん、失敗もしますが、自分しか わからないコツやノウハウもあり、「これが動くのはこういう技術を使っているからなんだよね」と、一人でほくそ笑んだりできることでしょうか(笑)。

住友重機に入社した当初から宇宙部門に所属されていたのですか?
いえ、入社時は圧延機やプレス機というような製鉄機械の部門で働いていました。

ある時、若い技術者を宇宙部門に入れるという話があって、私に白羽の矢が立ったと聞いています。部門は変わることになったのですが、「機械」というくくりでは前の部署と同じでした。そのため、「地上で使う機械から宇宙で使う機械に変わるだけ」という気分で、特に新天地に行くというような気持ちはありませんでした。

私が宇宙部門に異動した2000 年は、ASTRO-E を搭載したロケットの打上げが失敗した年です。搭載機器の開発に携わった部署は、非常に落ち込んだ雰囲気だったのを今でも覚えています。ASTRO-Eの後継機、ASTRO-E2(すざく)では試験から、ASTRO-H では設計から、クライオスタット開発に携わり、XRISMでは現場を統括する立場になりました。XRISM開発が決まったときは世代交代の時期でもあり、年⻑者が抜けたので、今回、私がとりまとめを任されたのだと思います。

吉田さん率いるチームが開発された機器のアピールポイントは?
私たちは真空容器、液体ヘリウム容器、冷凍機を組み合わせたクライオスタットを開発しました。このうち冷凍機のウリは効率です。つまり、投入電力に対して冷却能力が高いことです。このことは宇宙機では特に強みになります。それから真空容器や液体ヘリウム容器に使う低温技術と真空技術は、宇宙分野に限らず他分野にも適用できて、世界的に見ても優位性があると思っています。

X線分光撮像衛星(XRISM) 軟X線分光装置(Resolve)を衛星に搭載している様子。(c) JAXA

何人くらいのチームで開発されたのですか。
基本的には、ASTRO-H の経験がある人がそのまま担当で、そこに新規メンバーが入いる、という編成です。設計8 人、製造20人のほかに、品質保証など他部署から参加している人もいます。60歳代のベテランから30歳代の若手までの年齢層の幅があるチームですが、気心が知れたメンバーでもあります。

チームをとりまとめる上で心がけていることはありますか?
週に一度は、必ず、議題がなくてもミーティングをしていました。その方が作業効率がよいというメリットがあります。それから、ミーティングすることで、メンバーとコミュニケーションして、チームの雰囲気も感じ取ることができました。私の場合は、基本的には現場でチームメンバーと一緒に作業していましたから、より一層コミュニケーションは密だったと思います。

それに皆さん、自分の考えをきちんと遠慮せずに伝えてくるので、風通しは良いチームだ ったなと思います。

遠慮なしの意見を受け止める側はなかなか大変だけど(笑)

熱真空試験の前に打合せを行っているときの一コマ。写真中央が吉田さん。吉田さんの右隣はJAXAプロジェクトマネージャの前島さん。(c)JAXA

これまでの開発で印象に残っていることを教えてください。
うれしかったことはすぐに忘れてしまいます、なぜでしょう?(笑)。

一方、冷や汗をかいたことはずっと覚えています。例えば、ヘリウムのリーク(漏れ)。直前に冷凍機ドライバ納入が無事に終わり、もうすぐ筑波(JAXA筑波宇宙センター)で作業かー、と思っていた矢先に起きました。確か発生したのは土曜日の夕方。お先真っ暗になりました。

筑波で振動試験をした時にも問題が発生し、このときもお先真っ暗な気分になりました。

試験は、打上げ前に不具合や問題点をすべて洗い出すのが目的です。ですから、修理可能な打上げ前に問題が見つかるのは、ある意味、よいことなのです。ですが、やはり、不具合に直面すると、落ち込みます。

落ち込んだときの立ち直り方やリフレッシュ方法を聞かせてください。
私は不具合が起こると、すごく落ち込むタイプです。「あの時こうやっていたら上手くいっていたかもしれない」とずっと悩むタイプなのです。

気分転換が上手くできないので、落ち込みを解消するには問題解決するのみ! 逆にそれが、問題解決の推進力になっているのかもしれません。

リフレッシュ方法は特にないのですが、一日何もせず、ただひたすらぼーっとして、夜ビールを飲んで眠れると幸せです。こういう頭を空っぽにする時間が、気持ちの切り替えやリフレッシュになっているのかもしれません。

仕事での夢はありますか?
宇宙分野は非常に面白いので、できれば定年まで宇宙分野の仕事をしたいと思っています。 XRISM の後にもう一機、衛星開発に携わって、その打ち上げまで見届けられると幸せですね。それから「その日その日を誠実に過ごす」という、宇宙部門に配属された時の気持ちを忘れないようにしています。その日その日を誠実に過ごし、積み重ねていくことで、将来への道が開けていきます。これからも毎日誠実に経験を積み重ねながら、振り返ってみると満足できる過ごし方ができていればよいですね。

インタビュー日:2022年10月12日
インタビュアー:堀内貴史・生田ちさと