X線分光撮像衛星XRISM │ JAXAX線分光撮像衛星XRISM

科学成果

科学成果 ブラックホール周辺の時空の歪みを捉える

概要

X線分光撮像衛星XRISM(クリズム)は、活動銀河MCG–6-30-15の中心にある巨大ブラックホールを観測し、その周囲に形成された降着円盤の最内縁近くから放たれたX線を捉えることに成功しました。アインシュタインが提唱した一般相対性理論によると、ブラックホール近傍から来る光は、強い重力による時空の歪みの影響を受け、波長が変化して観測されます。今回の研究では、XRISMが搭載する高分解能分光装置「Resolve(リゾルブ)」の優れた性能を活かし、降着円盤の最内縁近くに由来するX線スペクトルを正確に抽出できたことで、ブラックホールがもたらす一般相対論の効果を明確にしました。また、ブラックホールが高速で回転している可能性についても示唆しました。

研究の背景

 私たちが暮らす太陽系は、天の川銀河と呼ばれる銀河に所属します。宇宙には、同様の銀河が他にも無数に存在します。それらの多くは、中心に太陽の数百万〜数十億倍もの質量を持つ巨大なブラックホールを持つことが知られています。ブラックホールは、強い重力によって周囲のガスを引き寄せ、「降着円盤」を形成します。この円盤を構成するガスに含まれる鉄原子は、Fe Kα輝線と呼ばれる特徴的なX線を放射します。

Fe Kα輝線は、ブラックホール周辺の様子を探る上で重要な手がかりとなります。降着円盤がブラックホールの近傍にまで達している場合には、円盤の高速な回転による特殊相対論的効果と、強い重力による一般相対論的効果によって、Fe Kα輝線は非対称に大きく拡がった形状を示します。今回XRISMが観測したMCG–6-30-15では、1993年に打ち上げられたX線天文衛星「あすか」の観測により、広がったFe Kα輝線の検出が報告されていました。しかし、従来の衛星は十分な分光能力を持たなかったため、円盤から吹き出す風による吸収線などの影響で、Fe Kα輝線が見かけ上、広がった形を示しているだけだという可能性も指摘されていました。

観測成果

図:ブラックホール周辺の想像図。 左上はXRISMが搭載する高分解能分光装置「Resolve(リゾルブ)」が観測したMCG–6-30-15の巨大ブラックホールのスペクトル。ブラックホールから離れた領域を起源とする「幅の狭い輝線」、降着円盤から吹き出す風(アウトフロー)に由来する「幅の狭い吸収線」に加えて、特に低エネルギー側に大きく拡がったFe Kα輝線が検出された。 Credit: CfA/Melissa Weiss

 XRISMは2024年2月に、ケンタウルス座の方向、約1億2千万年光年の距離にあるMCG–6-30-15の巨大ブラックホールを観測しました。この観測は、XRISM単独ではカバーできない広帯域のX線スペクトルを得ることを目的に、NASAのNuSTAR衛星およびESAのXMM-Newton衛星と共同で実施しました。この共同観測において最も重要な役割を果たしたのがXRISMです。優れた分光性能を持つResolveは、Fe Kα輝線の詳細な構造を調べるのに適します。図に示す通り、幅の狭い輝線や吸収線に加えて、ブラックホール近傍の降着円盤に由来する広がったFe Kα輝線が確かに存在することを明らかにしました。「あすか」の観測から30年間に及んだ論争に、決着をつけたと言えます。なお、幅の狭い輝線はブラックホールから離れた領域での反射に由来し、吸収線は、降着円盤から吹き出す風によるものと考えられます。XRISMの観測でこれらの構造を初めて検出できたことが、降着円盤由来の広がったFe Kα輝線の正確な寄与を決定することに繋がりました。

Fe Kα輝線の観測は、ブラックホールの回転についても重要な情報をもたらします。ブラックホールには、「事象の地平線」と呼ばれる、それより内側では光さえも外向きに進めない境界面が存在することが知られます。一般相対性理論によると、ブラックホールが無回転の場合、降着円盤は事象の地平線の3倍の半径より内側には存在できません。一方、ブラックホールが降着円盤と同じ向きに高速回転している場合は、降着円盤が事象の地平線近くにまで達することが予言されています。今後の詳しいデータ解析により、ブラックホールの高速回転を示す強い証拠が得られると期待されます。

今後の展望

 XRISMによるMCG–6-30-15の観測は、高分解能X線分光がブラックホール近傍の物理を直接探る強力な手段であることを示しました。特に、一般相対論的効果による鉄輝線の拡がりが明確に捉えられたことは、ブラックホール周囲の時空の歪みを測定する上で大きな前進です。今後は、他の活動銀河の中心ブラックホールや銀河系内の恒星質量ブラックホールでも同様の手法を適用し、降着円盤の構造やブラックホールの回転を明らかにしていきます。また今回の観測では、ブラックホール近傍からのX線の他に、降着円盤から高速で吹き出す風(アウトフロー)による吸収線も検出されました。このアウトフローは、銀河全体の進化にも影響すると考えられています。今後、ブラックホールの質量とアウトフローの関係を詳しく調べることで、銀河とブラックホールの共進化プロセスを解明できると期待されます。

論文情報

雑誌名:Astrophysical Journals
論文タイトル: A Sharper View of the X-ray Spectrum of MCG–6-30-15 with XRISM, XMM-Newton and NuSTAR
著者: Laura W. Brenneman, Daniel R. Wilkins, Anna Ogorzałek, Daniele Rogantini, Andrew C. Fabian, Javier A. García, Anna Juráňová, Misaki Mizumoto, Hirofumi Noda, Ehud Behar, Rozenn Boissay-Malaquin, Matteo Guainazzi, Takashi Okajima, Erika Hoffman, Noa Keshet, Jelle Kaastra, Erin Kara, and Makoto Yamauchi
DOI番号: https://doi.org/10.3847/1538-4357/ae1225