衛星開発には、メーカーが持っている生産技術や品質保証などのノウハウが欠かせません。今回のインタビューでは、そんな頼れるメーカの一つである三菱重工業株式会社(MHI; Mitsubishi Heavy Industries, Ltd.)にご所属の玄蕃 恵 さんにお話を伺いました。
Xtendは2022年2月に開発完了して無事にJAXAへ納入されました。開発が一段落した、今のお気持ちをお聞かせください。
無事に開発できて、ホッとしているのが正直な気持ちです。XRISMには契約の最初の段階から納入まで3-4年間携わったことになります。
契約の段階では、ASTRO-Hで同様のミッション機器であるSXIを開発していた実績もあり、技術的なハードルはそれほど高くないと聞いていました。ですが、いざ開発を始めると、いろいろ解決すべき課題が出てきて・・・ それを順次クリアし、やっと納入できて、一安心という気持ちです。
この3-4年はあっという間、という感じでしょうか?
今振り返ると短かった、あっという間だったと思います。開発中は目の前の作業に集中して無我夢中でした。開発が終わったから、短かったと感じられるのかもしれません。開発中は、いろいろな課題も見つかり、それを乗り越えていくことの繰り返しで、いつまで続くのかと、長いトンネルの中にいるような気持ちでした。
玄蕃さんがXtendの開発を担当するようになった経緯を教えてくださいますか?
ASTRO-Hの開発では、SXI含めてSGDやHXIなどのミッション機器をMHIで製作していました。そのとき、私が関わっていたのは、HXIとSGDというエネルギーが高い硬X線や軟ガンマ線の観測機器開発でしたす。
XRISMでは、Xtendの開発にMHIが携わることが決まったとき、ASTRO-HでX線天文衛星のミッション機器を開発した経験もあるということから、私が取りまとめ役の候補として名前が挙がったようです。そのとき、社内的にはちょうど主席という、取りまとめの役職についていたので適任ということでアサインされたようです。
Xtend開発チームはどのようにして結成されたのですか?
私は設計部門に所属していますが、機器開発には、設計のほか製造や品質保証など部門の枠を超えた人材が必要になります。ASTRO-Hの経験を活かせる人、つまり、経験者を集めてチームをつくりました。
何人くらいのチームですか?
作業のフェーズにより増減ありますが、設計時が最も多くて、10名くらいです。この時期、チーム全体では、だいたい、入社から4-10年目くらいのエンジニアが参加していました。
チームの雰囲気はいかがでしたか?
幸いなことに、いいメンバーが揃った、よいチームだったと思います。
例えば、私が入社10年目くらいのメンバーに仕事をオーダーすると、その技術者が若い技術者に細かいことまで指示してくれました。そのため、私は管理業務に集中でき、技術的なことは他のチームメンバーに任せることができました。
それから、チークワークもよかったです。メンバーが自分の仕事の範囲にこだわらず、お互いにカバーしながら、開発が進んでいきました。
チーム内で一番の若手は入社4年目くらいの社員。仕事も慣れてきて、ある程度、仕事の流れや段取りもわかっている、という段階です。そういう社員に、実際に宇宙機用のCCDを扱い、FPGA(注1)開発の動作確認等を行って、一通りフライト品の製造を担当してもらいました。こういった経験は勉強になったでしょうし、技術力のアップにつながったのではないかと思います。
注1:FPGAは、Field-Programmable Gate Arrayの略。設計者が現場で、プログラムにより処理内容を変更できるデバイス。
風通しがよいチームだと、JAXA-Xtendチームからも聞きました。
Xtendのカラーとしてそうなのかもしれない。私も、MHIとJAXAさんとの窓口として、JAXAさんに対して言いたいことは率直に話した気がします(笑)
そんなこんなで、コミュニケーションでの苦労はなかったですね。
新型コロナが猛威を振るっている時期でも、世間で言われているような人と人とが疎遠になったということはありませんでした。テレワークの頻度が高くなかったからかもしれません。
モノづくりが始まっている段階では、やはりモノがある現場に行くことが多く、感染防止対策をしっかりやって、現場作業にあたりました。
開発完了までには、ご苦労もあったと思います。
そうですね。話しにくいのですが(笑)、二つほど記憶に残っている苦労があるかな。
一つ目は、契約調整の際。契約に至るまで、JAXAとの調整に長い時間がかかったことです。ASTRO-Hの時と比べて、メーカーとJAXAの役割と責任分担についての考え方がずいぶん変わったのが驚きでした。その考え方が変わったことを理解して、契約書に落とし込むまでの調整が大変でした。
二つ目は、製造についてです。ASTRO-Hで、同じような機器を製造しましたから、製造工程は同じことをすれば問題ないと思っていました。しかし、開発を始めると、電子機器もセンサもトラブルが発生し、トラブルシュートするなど、製造も一筋縄ではいきませんでした。トラブルシュートをするとなると、「やるしかない」という強い気持ちで、集中しました。
ただ、実はトラブルシュートは悪いことばかりでもないのです。技術者にとっては、トラブルは勉強になって技術力が上がる場面、つまり成長のチャンスでもあります。それで、若手技術者にも積極的に携わらせて、解決の仕方や筋道等を見せてきたつもりです。
開発には長い時間もかかりますし、良いときばかりではないと思います。そんなとき、気持ちの切り替え、リフレッシュ方法あれば教えてください。
体を動かすことが好きなんです。昼休みに走ってリフレッシュしていました。そういえば、私の事業所では、昼休みに走っている人が結構いますね。 午前中のデスクワークでもんもんとしていても、走ることですっきりして午後頑張れました。
休日の気分転換は?
料理を作るのが好きで、料理作ったりしました。
得意料理は、餃子やハンバーグ。みじん切りは無心になれます(笑)。
餃子は結構自信があり、です。皮は買ってきますが、具は自作。つかうのは、白菜、ニンニク、ごま油などスタンダードな材料です。白菜を入れるとふわっとするのでお勧めですよ。作るときは、普通に50個とか作ります。みじん切りも皮を閉じる作業も苦にならないのは、基本的に、作業するのが好きだからかもしれません。
座右の銘はありますか?
”It always seems impossible until it’s done。” (ネルソン・マンデラ氏)
です。
会社でもらったティーバッグにたまたま書いてあった言葉ですが、深いなと思い、心にとめました。
トラブルが起きても解決策はなかなか見つからない、でも最後は解決できる、と。
実は、このティーバッグは机に貼ってあります。もう汚くなっちゃったけど(笑)。
最後に、みなさまへのメッセージをお願いします。
XRISMの目指すサイエンスは私も含め一般の人には、正直とっつきにくい感じがしますが、それを通して、サイエンティストが新たな知見を発見し、日本の技術力の高さが発信できれば、嬉しいです。
X線天文は、日本が得意分野と言われています。少しでもそこに貢献できればと思っています。
インタビュー日:2022年3月22日
インタビュアー・編集:堀内貴史・生田ちさと