ポイント
- X線分光撮像衛星(XRISM:クリズム)の高分解能X線分光観測により、スターバースト銀河※1M82の中心領域に存在する高温ガスの速度の広がりを、世界で初めて直接測定しました。
- その結果、この速度の広がりは従来の予測よりも大きく、超新星爆発※2のエネルギーの大部分が高温ガスとして熱化している可能性が示されました。
- さらに、この高温ガスは周囲の物質を巻き込みながら高速で運動し、その一部は銀河の重力を振り切って銀河外へ到達する可能性が示されました。
- これにより、スターバースト銀河において物質が銀河内にとどまる過程と銀河外へ流出する過程の両方が明らかになり、銀河進化および宇宙の物質循環※3の理解の進展につながる成果です。
研究概要
スターバースト銀河では、大量の星形成に伴う多数の超新星爆発によって銀河中心部のガスがX線を放射するほどの高温に加熱されます。この高温ガスが駆動源となって周囲の物質を押しのけ、巻き込みながら高速の流れ(銀河風※4、図1参照)が形成されると考えられています。この流れは銀河内にとどまる成分を含むとともに、一部が銀河外へ流出する場合があると考えられています。このような物質の流れは、星の内部で作られた重元素を含む物質やエネルギーを銀河内外へと運ぶことで、銀河内外を結ぶ物質の輸送過程を担い、銀河の進化や宇宙の物質循環に重要な役割を果たします。しかし、これまで観測されてきたのは主に巻き込まれた物質の運動であり、駆動源である高温ガスの運動を直接測定することは困難でした。そのため、超新星爆発のエネルギーがどの程度高温ガスとして蓄えられ、どの程度の物質が流出するのかを観測的に検証することは長年の課題でした。
今回、XRISM国際共同研究グループ(XRISM Collaboration、以下「研究グループ」)は、スターバースト銀河M82の中心領域に存在する高温ガスの速度の広がりを精密に測定しました。その結果、この高温ガスは従来の予測を上回る大きな速度の広がりを持つことが明らかとなり、超新星爆発のエネルギーの大部分が高温ガスとして熱化されている可能性が示されました。さらに、この高温ガスは周囲の物質を巻き込みながら高速で運動し、そのエネルギーの一部によってさまざまな温度や状態の物質からなる流れが駆動されるとともに、残りの高温ガスの一部は銀河の重力を振り切って銀河外へ到達する可能性が示されました。
本結果により、スターバースト活動によって駆動されるガスの運動が、銀河内外の物質循環にどの程度寄与するのかを定量的に捉える手がかりが得られました。これにより、銀河進化および宇宙の物質循環の理解の進展が期待されます。
研究の背景
宇宙には無数の銀河が点在しています。その銀河間の空間にも重元素が存在していることが知られています。これらの重元素は星の内部で作られるため、本来は銀河の中に存在していたものです。銀河間空間にある重元素は、どのような仕組みで銀河外へ運ばれたのでしょうか?
この謎を解く有力な候補として考えられているのが、さまざまな温度や状態の物質からなる銀河スケールの高速の流れ(銀河風)です。スターバースト銀河では、激しい星形成に伴って短いタイムスケールで多数の超新星爆発が発生します。これらの爆発によって星間ガスが強く加熱されて高温高圧のガスとなり、その周辺物質を巻き込みながら銀河円盤を突き破り、銀河内外へと広がる流れが形成されると考えられています。
しかし、銀河風の駆動源である高温ガスの運動を直接測定することはこれまで困難でした。特に、X線を放射する数千万度の高温ガスの運動状態を精密に測定するには、高いエネルギー分解能を持つX線分光観測が必要でした。
観測成果
今回、XRISMに搭載された軟X線分光装置Resolve(リゾルブ)を用いて、地球から比較的近い(約1200万光年)、代表的なスターバースト銀河であるM82の中心領域を2024年5月に観測しました。その結果、約2000万度の高温ガスが放射するX線輝線の広がりから、このガスには、視線方向(私たちに向かってくる方向・遠ざかる方向)にそれぞれ約600 km/s程度の速度のばらつきがあることが分かりました。(図2参照)。この結果は、高温ガスが予想より大きな運動エネルギーを持つことを意味しており、スターバーストによって生じる多数の超新星爆発のエネルギーの大部分が高温ガスとして蓄えられていることを示唆しています。
さらに、この高温ガスのエネルギーがどのように使われているかを調べたところ、その約60%が分子ガスや中性ガス、電離ガスなどのより温度の低い物質を加速し、さまざまな温度や状態の物質からなる銀河風を形成するために使われていると考えられます。一方、残りの高温ガスは、銀河の重力を振り切って銀河間空間へと流出される可能性があります。これらの結果は、宇宙線などの追加のエネルギー源を必要とせず、超新星爆発によって加熱された高温ガスのみで銀河風が駆動できることを示唆するものです。
今後の展望
M82は近傍にある代表的なスターバースト銀河であり、この現象の物理を調べるうえで理想的な天体です。しかし、スターバーストを引き起こす要因やその規模は銀河によって異なります。今後、他のスターバースト銀河でも同様の観測を進めることで、この現象が宇宙全体の物質循環にどの程度寄与しているのかについて、より一般的な理解が進むことが期待されます。
用語解説
※1 スターバースト銀河
爆発的に高い星形成活動を示す銀河。短い時間の間に大量の大質量星が形成され、それに伴って多くの超新星爆発が発生する。
※2 超新星爆発
重い星がその一生の最期に起こす大規模な爆発現象。星の内部で作られた重元素を宇宙空間へ放出するとともに、周囲の物質に大きなエネルギーを与える。
※3 物質循環
銀河内外にわたって物質が移動する過程を含む物質の流れ。銀河進化および宇宙全体の物質循環に影響を与える。
※4 銀河風
多数の超新星爆発によって生じた高温ガスが駆動源となり、周囲の物質を巻き込みながら銀河内外へと広がる、さまざまな温度や状態の物質からなる銀河スケールの高速の流れ。
論文情報
雑誌名: Nature
論文タイトル: A fast starburst wind consumes most of the energy from supernovae
著者: XRISM Collaboration
DOI: 10.1038/s41586-026-10231-1



