ポイント
- カシオペア座Wの中央に輝く「カシオペア座ガンマ星」は、X線で異常に明るく、その原因が長年の謎でした。
- 史上最高のX線分光性能を持つX線分光撮像衛星「XRISM」により、X線放射のわずかな波長変化(ドップラーシフト)を検出しました。
- その結果、この天体は「重い星」と「白色矮星」からなる連星系であることが明らかになりました。
- 本成果は、連星特有の進化過程を理解するうえで重要な一歩です。
詳細
カシオペア座は、明るい5つの星が形作る「W」の字でよく知られる星座です(図1左)。その中央にある二等星が「カシオペア座ガンマ星」です。この星は、太陽の約16倍の質量を持つB型輝線星に分類されます。
古くから知られていたこの星ですが、2000年になって初めて、203日の周期をもつ連星であることが判明しました。連星とは、2つの天体が互いの重力によって周回する天体の組です。目に見える主星はB型輝線星ですが、伴星の正体は分かっていませんでした(図2)。質量が大きい方の星を「主星」、小さい方の星を「伴星」と呼びます。カシオペア座ガンマ星の場合、主星が目で見えるB型輝線星ですが、伴星は正体不明でした。なお、目に見える星の約半分以上が連星と考えられています。ちなみに太陽は、連星ではない単独星です。
今から約50年前、人類がX線を使って宇宙を観測するようになって間もない頃、この天体がX線で異常に明るいことが発見されました(図1右)。通常のB型輝線星は、このようなX線を放射しないため、X線天文学における長年の謎になっていました。「カシオペア座ガンマ星」は特別なB型輝線星なのでしょうか、それとも正体不明の伴星が強烈なX線を出しているのでしょうか?
この謎を解く鍵は、「ドップラー効果」にあります。連星では、2つの星が互いの周りを回るため、それぞれの放射する光の波長がわずかに青側・赤側へと周期的にずれます。これは、救急車の音が近づくと高く、遠ざかると低く聞こえる現象と似た原理です。図2上にあるように、主星は反時計回り、伴星は時計回りに回転するとします。伴星の方が軽いので、動きが大きくなります。これのスペクトルを観測すると、図2下にあるように、主星と伴星からの輝線の色の変化が正反対の動きをすることが期待されます。動きの速い伴星の方が振れ幅も大きく、両者の質量の比の逆数である20倍程度になります。
しかし、期待される色の変化はごく僅かです。これを捉えられるのは、光速の 0.01% の速度を識別できる、史上最高の「色分け力」を持つXRISM搭載のX線分光器しかありません。この度、XRISMを用いて、この天体のX線スペクトルを、3回(伴星がそれぞれ、時計短針が0時20分、3時15分、10時20分の位置にある時に)観測しました。同時期に、我々の目と同じ波長(可視光)でのスペクトルも取得しました。図3左が可視光、右がX線の結果です。連星の運動に伴う色の変化が捉えられ、可視光は主星、X線は伴星から出ていることが決定的になりました。
全体的なX線スペクトルの特徴や可視光・紫外線でまったく検出されないことなどから、伴星は白色矮星と考えられます。白色矮星は太陽程度の質量が小さい星の最終形態です。通常、星は質量が重いほど寿命が短いです(星は「太く短く」か「細く長く」かしか生きられない)。このように同時期にできたと考えられる連星で、質量の小さい方が先に進化しているように見えるのは不思議なことです。しかし、連星の場合はお互いの質量を交換でき、最初に重い方の星が剥ぎ取られて先に白色矮星になることもありえます。このような連星特有の進化事情を理解する上でも、今回の発見は重要な意義を持ちます。
用語解説
Swift 衛星 : NASA を中心に米英伊で開発されたX線天文台。2004年から稼働。正式名称をニール・ゲーレルズ スイフト天文台(Neil Gehrels Swift Observatory)と言う。ガンマ線バーストとその残光の観測を主目的とするため、広視野の監視と迅速な追観測が得意である。
論文情報
タイトル: カシオペアガンマ星の鉄K輝線における軌道運動の検出
原題: Orbital motion detected in gamma Cas Fe K emission lines
掲載誌: Astronomy & Astrophysics
DOI: 10.1051/0004-6361/202558284



