X線分光撮像衛星XRISM │ JAXAX線分光撮像衛星XRISM

科学成果

科学成果 XRISMがとらえた「奇数番号元素」の起源 
超新星残骸カシオペアAから塩素とカリウムを検出

X線分光撮像衛星XRISM(クリズム)は、超新星残骸カシオペア座Aの観測(図1)によって、爆発前の星の内部で塩素やカリウムといった「原子番号が奇数の元素」が効率的に生成されていたことを明らかにしました。塩素やカリウムは、生命活動の維持に欠かせない重要な元素です。今回の成果は、大質量星のモデルとして従来考えられていた「玉ねぎ状の元素構造」を破る、星内部の激しい活動が、奇数番号元素の供給源として重要な役割を果たしていることを示唆します。

図1: XRISM 衛星による超新星残骸「カシオペア座A」の観測。 画像はXRISM/Xtend によって得られたX線画像(青色)とジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡によって得られた画像(赤・緑色)を混合したもの。黄色のX線スペクトルが XRISM/Resolve の観測結果。(©明治大学/京都大学/JAXA)

研究の背景

私たちの身の回りにある様々な物質は、長い宇宙の歴史の中で、どのようにして作られたのでしょうか? 今から約138億年前、宇宙が誕生した直後には、水素やヘリウムなどの軽い元素しか存在しませんでした。一方、現在の宇宙には、酸素や炭素、鉄などの、生命や文明を支える様々な重元素が存在します。これらの元素の多くは、星の内部での核融合によって生み出されたことが知られます。生み出された重元素は、超新星爆発によって宇宙空間に撒き散らされ、やがて次の世代の星や惑星の材料となります。このような、星の誕生と進化、爆発が繰り返されることで、現在のような元素に満ちた宇宙が形成されました。

但し、重元素の中でも、塩素(原子番号17)や、カリウム(原子番号19)などの「奇数番号元素」の多くは、その生成過程が未だによくわかっていません。一般的な超新星元素合成の理論計算によると、これらの元素を星の内部で効率的に作ることが難しく、現在の宇宙に存在する量を説明できないことが知られていました。塩素は生命活動を維持する電解質の一つであり、カリウムは神経や筋肉の働きに不可欠な元素です。これらの重要な元素が宇宙の歴史の中でどのようにして作られたのか、という問いは、現代科学における重要未解決問題のひとつでした。

観測成果

図2: XRISM に搭載された軟 X 線分光装置(Resolve)で取得されたカシオペア座Aのスペクトル(青色)。高いエネルギー分解能によって、これまでのX線検出器のX線スペクトル(灰色: チャンドラ衛星のX線CCDのスペクトル例)では観測できなかった元素「塩素・カリウム」を発見した。上部パネルは、カリウムの輝線周辺を拡大したもので、赤色の実線はカリウムを含む放射モデル、オレンジ色の点線はカリウムを含まない放射モデルを示す。(©JAXA)

X線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」が搭載する高分解能分光装置「Resolve(リゾルブ)」は、従来の検出器よりも1桁高い分光性能を持ち、ケイ素(原子番号14)やアルゴン(原子番号18)などの偶数番号元素に比べて存在量が少ない、奇数番号元素の探査に適します。XRISMコラボレーションは、17世紀後半に超新星爆発を起こした大質量星の残骸として知られる「カシオペア座A」から、塩素(Cl)とカリウム(K)のX線シグナルを初めて明確に検出しました(図2)。また、これらの元素が、超新星残骸の南東部や北部などの、酸素が多く存在する領域に集中していることが判明しました。この観測事実は、以下に述べる重要な示唆を与えます。

図3: 爆発直前の大質量星の構造として従来考えられていた「玉ねぎ状の元素分布」(User:Rursus, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)

一般に、爆発直前の大質量星は、図3に示すような「玉ねぎ状の元素分布」を示すと考えられています。しかしこの状態のままでは、塩素やカリウムは効率的に生成されず、特に酸素が豊富な層にはほとんど含まれないことが元素合成計算により示されていました。一方、何らかの理由で酸素層に外層のネオンなどが混ざり合うと、新たな核反応の経路が開き、奇数番号元素が効率的に生成されます。つまり、塩素やカリウムと酸素の共存は、星が爆発する前に、酸素層とネオン層が激しく混ざり合ったことを示唆します。これらの層を混合するメカニズムとしては、恒星内の対流や自転の効果、あるいは別の星との相互作用の影響などが考えられます。どの効果が主要な役割を果たしたのかは現時点では確定していませんが、XRISMの分光性能を活かした本研究は、「カシオペア座A」の爆発前の星の内部で起こった激しい活動の証拠を掴むとともに、塩素やカリウムといった生命維持に欠かせない元素が効率的に生成されるプロセスの理解に大きな手掛かりを与えました(図4)。

図4: XRISM衛星による元素の発見の意義。生命維持や惑星形成にも重要な元素が、恒星内部活動に由来していることを解明した。(©JAXA)

今後の展望

今回の観測は、超新星残骸カシオペア座Aの一部の領域において、奇数番号元素である塩素やカリウムが豊富に存在することを突き止め、これらの元素が爆発前の星の内部で効率的に生成されたことを明らかにしました。一方、本研究により示された新たな核反応過程の寄与が、現在の宇宙に存在する塩素やカリウムの量を説明するのに十分かどうかについては、未だ結論が得られていません。XRISMは今後、カシオペア座Aの未観測領域や、他の超新星残骸における生成元素の総量を詳しく調べることで、「宇宙のレシピ」の解明を目指します。

論文情報

雑誌名:Nature Astronomy
論文タイトル:Chlorine and Potassium Enrichment in the Cassiopeia A Supernova Remnant
著者:XRISM Collaboration
DOI番号:10.1038/s41550-025-02714-4

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