X線分光撮像衛星XRISM │ JAXAX線分光撮像衛星XRISM

科学成果

科学成果 XRISMによる銀河系内硫黄の精密測定

 X線分光撮像衛星XRISM(クリズム)は、銀河系内の星間空間に存在する硫黄の量と状態を、これまでにない精度で測定しました。決め手となったのは、XRISMが搭載するResolve(リゾルブ)の優れた分光性能です。明るいX線連星を背景光として利用した精密分光分析により、星間物質中に含まれる硫黄の気体成分と固体成分を同時に検出し、固体相の割合や組成に制限を与えることに成功しました。

XRISMを用いて硫黄をX線で観測した星間物質の一部。中心の青い点がX線連星GX 340+0である。この画像は、X線(濃い青で表示)、赤外線、可視光線の画像が組み合わされた合成画像。
Image credit: DSS/DECaPS/eRosita/NASA’s Goddard Space Flight Center

 硫黄はタンパク質やビタミンなどにも含まれる、生命活動に不可欠な元素です。しかし宇宙のどこに、どのような状態で存在するのかは、これまでよくわかっていませんでした。特に、分子雲などの高密度領域では、硫黄の量が理論予想より大幅に少なく見積もられることが以前から知られていました。その理由として、硫黄が塵や氷の中に固体として閉じ込められていた可能性が指摘されていましたが、紫外線や赤外線を用いたこれまでの観測では、固体中の硫黄を直接的に確認することができませんでした。

 XRISMは、この問題に突破口を与えました。銀河系内の明るいX線連星GX 340+0と4U 1630–472を背景光として利用し、視線上の星間物質によるX線吸収を検出することで、星間物質中の硫黄の量や状態の直接測定に成功したのです。X線吸収を用いた物質分析の原理については、
こちらの記事 → https://note.com/xrism/n/n9e55b70a14c4
をご参照ください。

今回XRISMはこれと同様の手法により、気体相の硫黄と固体相の硫黄の両者が存在することを確認しました。また、GX 340+0の方向では固体相の割合が約40%に及び、その一部は例えばFeSなどの鉄硫化物の状態にあることを明らかにしました。長年謎とされてきた「隠れた硫黄」の居場所を突き止めた初めての成果であり、銀河の化学進化を理解する上で重要な手がかりとなります。

 本成果に関する論文は、先日刊行された日本天文学会の学術誌『Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ)』のXRISM特集号に掲載されています。今後XRISMは、銀河系内の他の視線方向に対しても同様の観測を行い、星間物質における硫黄の分布と進化を体系的に明らかにしていく予定です。