概要
X線分光撮像衛星(XRISM: クリズム)は、太陽程度の重さをもつ高密度天体(中性子星)から噴出する外向きのガスの流れ(風)と、太陽の数億倍の重さを持つ超大質量ブラックホールから噴出する「風」の間に予想外の違いがあることを明らかにしました。中性子星から生じる「風」の密度が非常に高くかつ速度が遅いことは、これらの「風」がどのように形成されるのかという理解に挑戦を投げかけます。

(クレジット:CfA/Melissa Weiss)
背景
ブラックホールや中性子星といった高密度天体はその天体に落下してくるガスの重力エネルギーを解放し、X線で明るく輝きます。この解放されるエネルギーは銀河の形成や宇宙の進化に大きく影響を与える可能性が示唆されています。中でも高密度天体で放出される外向きのガスの流れ(風)はその解放されるエネルギーの一部を輸送するメカニズムとしてその生成過程が問題になっています。これらの風は分光スペクトル中の吸収線の光のドップラーシフトによって観測されます。
研究内容
2024年2月25日にXRISMはこれまでに無い分光性能を持つ軟X線分光装置(Resolve:リゾルブ)を使用して、中性子星GX 13+1を観測しました。中性子星とはかつて巨大な星の核として存在し、その巨大な星が爆発後に残った天体です。この観測を行ったとき、この天体は予期せず、見かけ上暗くなる状態になりました。これは「風」が非常に濃いことにより中性子星からのX線放射を隠してしまっていることに起因しています(図2)。実際のX線放射の明るさは、エディントン限界と呼ばれる理論上の上限を超えるか、あるいはそれに匹敵する明るさに達したと考えられます。 エディントン限界とは、ブラックホールや中性子星のような高密度天体に物質が落下する際に放出される放射が、落下する物質に対して十分な圧力をかけて、逆にそれを外側へと押し戻す臨界点を指します。この限界に達すると、多くの物質が「風」として噴出します。XRISMはまさにこの驚くべき瞬間を捉えました。

(クレジット:CfA/Melissa Weiss, XRISM Collaboration)
しかしながら、この「風」の速度はこのような理論で期待されるものとは異なっていました。Resolveで観測された速度は約毎秒300 km (約毎時百万km)で地球規模では十分に速いものの、同じようにエディントン限界付近の光度をもつ超大質量ブラックホールで観測されるアウトフローは光速の約20—30 %、約毎時2億—3億kmを超えます。速度だけではなく、他の違いも観測されました。XRISMは以前、超大質量ブラックホールのエディントン限界付近で観測された「風」の構造も明らかにしており、そこでは「風」が超高速で塊状だったのに対し、GX 13+1では滑らかな構造を持つことを明らかにしました。
今後の展望
このような中央の天体により様相が大きく異なる「風」の生成過程を明らかにすることで、過酷な強放射・強重力環境下でエネルギーと物質がどのように相互作用をするのかについての理解の再構築を可能します。このことは銀河の形成や宇宙進化を駆動する複雑なメカニズムをより完全に解明する手がかりになると考えられます。
論文情報
雑誌名: Nature
論文タイトル: Stratified wind from a super-Eddington X-ray binary is slower than expected
著者: XRISM Collaboration
DOI番号: 10.1038/s41586-025-09495-w
URL: https://www.nature.com/articles/s41586-025-09495-w