X線分光撮像衛星XRISM │ JAXAX線分光撮像衛星XRISM

トピックス

インタビュー 誰でも科学衛星を運用できる仕組み作り(インタビューシリーズ第5回)

今回は、科学運用担当の渡辺伸さんにインタビューしました。もともと宇宙好きの渡辺さん。大学に入り、専門分野を決めるときに、X線天文学の道へと踏み出したそうです。XRISMでは、衛星運用準備を担当し、衛星打ち上げ後、「誰でもXRISMを運用できる」体制づくりで活躍中です。

―XRISMに携わることになった経緯を教えてください。

XRISMプロジェクトを立ち上げる時に、現プロジェクトマネージャの前島さんに誘われたのがきっかけです。XRISMはASTRO-Hの代替機として立ち上がったミッション。プロジェクト立ち上げ時は、その当時のJAXA宇宙科学研究所の所長(常田佐久氏)とも面談をしました。

私は大学・大学院とX線で宇宙を研究する研究室の出身です。衛星としては、X線天文衛星「すざく」の頃から運用にも携わっていて、コマンド作成ソフトウェアの整備もしました。

「すざく」の次のX線天文ミッションであるASTRO-Hでは、搭載機器の一つ、SGD (Soft Gamma-ray Detector、軟ガンマ線検出器)のsub-PIとして、チームリーダーを補佐しつつ、開発運用の取りまとめをしました。

私の場合は、「すざく」とASTRO-Hでの運用準備から実際の運用までの経験や実績を評価して頂いて、XRISMメンバーになったのかなと思っています。それで、今は、XRISMプロジェクトで衛星運用準備の担当をしています。

―大学・大学院の時にX線天文を選んだきっかけを教えてください。物理学科だと、物性とか、素粒子とか、生物物理学とか、様々な研究分野があります。その中でもX線天文学の研究室を選んだのは、どんな魅力を感じてでしょうか?

学部4年生の研究室選択の際、牧島先生(牧島一夫 東京大学名誉教授)が、牧島研では衛星を作って打上げて観測するとおっしゃっていて、面白そうと思ったのがきっかけです。

―衛星開発ですと、宇宙航空工学という選択肢もありますよね?

そうですね。実は、高校生の頃は、宇宙航空工学にも魅力を感じていました。宇宙全般に興味があったと言った方が正しいかな。

―大学院もそのまま、牧島研ですか?

いえ、大学院は宇宙科学研究所(ISAS)の高橋研(注1)です。牧島研か高橋研を希望して、院試の面接の際、新しい検出器を開発してみたいと伝えたら、ISAS高橋研に決まりました。

結果的に、その当時、開発研究していた検出器はASTRO-Hに搭載されました。

(注1:当時は文部科学省 宇宙科学研究所。現在も、JAXAでは連携大学院や受託指導の制度で、大学院生を受け入れて教育・研究、又は実習の指導等を行なっている。)

―開発された検出器は地上での用途にも応用されたと聞いています。

そうです。宇宙で天体から発せられるガンマ線を検出する機器なのですが、この技術を転用して、放射性物質のイメージングを行う機器が製品化されました。

―XRISMプロジェクトのメンバーとして、日々、どのような仕事をされていますか?

一言で言うと、XRISMの運用準備です。

衛星の開発や製造を行なっている時は、誰もが開発に全集中してしまいます。それで、従来の科学衛星では、「運用のことは、モノが出来てから考えよう」、という状況になりがちでした。

本当は、それではマズイわけです。
衛星は、打ち上げて軌道にのせ、きちんと運用できることが重要ですから。

XRISMでは、過去の反省もあって、
「衛星の開発段階から運用の準備もしましょう」、
「運用のことを考えて衛星開発を行いましょう」、
ということにしています。私が担当しているのは、この運用準備のところです。

―具体的にはどのように仕事を進めていらっしゃいますか?

一言で言うと、運用が属人的にならないように準備を進めています。つまり、「この運用は○○さんに聞け」というのはやめて、誰が運用の担当になっても運用できるように準備を進めるということです。

そのために、ミッションを成功するためにどういう運用をすべきかを洗い出して、そのようにシステムが開発されているかを確認する仕事をしています。

―運用マニュアルを作るということでしょうか?

それも仕事の一つです。現場では、マニュアル作成の作業そのものは業務委託していますが、委託業者を監督するのも私の仕事です。打ち上げ後長い期間運用するので、誰でも運用できるように、文書なども整備しなければなりません。

昔は、運用コマンドや手順書は後回しに、できあがったシステムをどうにかやりくりして頑張るということも多くありました。

でも、最近は衛星システムもどんどん大型化・複雑化して、衛星システムが出来てから運用について考え始めるというやり方では、うまくいかなくなっています。それで、機器開発と並行して運用準備を進めているのです。

各機器の開発チームに運用文書を作ってもらうのですが、それらを読むと衛星の勉強になるのですよ。

そもそも、どういう設計思想なのか、という観点は運用を考える上でも知りたいところ。なので、機器開発チームの人には、運用の手順だけでなく、設計思想も書いて欲しいってお願いしています。

―仕事を進めるうえで心掛けていることは?

「誰でも運用できるようにする」、これに尽きます。

研究者の間では、「これについてはこの人に聞く」みたいな、いわゆる「餅は餅屋」の文化があります。「この人は余人をもって代えがたし」は科学者にとっては誉なわけです。

ですが、衛星運用でそれはよくない。私は、「余人をもって代えられる」運用に脱皮させたい。みんなが共通認識を持ちながら運用できるようにするのが、私の目標です。

―ちなみに、運用文書はどのくらいの分量になりますか?

数百ページある本十冊分くらいかな。

実は、ASTRO-Hではこういう文書がありませんでした。それで、一部の人にしか運用全体が見えていなかったのかもしれません。ASTRO-Hのことを反省して、XRISMでは、運用文書作成や運用準備にリソースを割いています。

―どんなところにやりがいを感じますか?

ASTRO-Hでは自分の研究してきた検出器の開発にやりがいを感じていましたけれども、今回はXRISMでの観測を成功させなければならないという使命感が強いです。

日本のX線グループとして、XRISMをなんとしてでも成功させなければならないっていう、使命感ですね。

―XRISMを待っている人へのメッセージをお願いします。

プロジェクトチームでは、
運用準備もちゃんとやって、しっかり運用するぞ!

だから、私も含めて
サイエンティストはサイエンス頑張ろう、
サイエンスで結果出そう!

―サイエンティストとして、XRISMでこれを調べたいというテーマはありますか?

特にこれというのは無く、”難しいこと”が好き。「精緻なことを言いたい・導き出したい」と思っています。

―例えば?

X線の精密分光が研究テーマです。観測データを再現する天体モンテカルロシミュレータを作っていまして、難しいけど精緻なことを導くことができる。そういうのが好みですね。精密分光できると、ガスの温度と運動も推測できますし、原子物理のプロセスへの理解も深まります。

XRISMの観測データでは、そういう「難しいこと」ができるはず。今は、どんな難しいことができるか、考え中です。

インタビュー日:2022年1月31日
インタビュアー・編集:堀内貴史・生田ちさと

  • TOP
  • トピックス
  • 誰でも科学衛星を運用できる仕組み作り(インタビューシリーズ第5回)