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インタビュー XRISMの「生まれ、育ち、健康で長生き」をケアする仕事(インタビューシリーズ第4回)

今回は、S&MA担当の荒井美孝さんへのインタビューです。S&MAって聞き慣れない言葉ですが、ミッション達成のために欠かせない重要業務の一つなのです。詳しくは、本文で。

そして、荒井さんのリフレッシュ方法の一つは、なんと、BABYMETALを聴くこと。リフレッシュして、バーンアウトしない過ごし方も、読者のみなさんの参考になれば幸いです。

——まずは、荒井さんがXRISMに携わることになった経緯を教えていただけますか?

私の場合は、出向元の上司から話をもらったのがきっかけです。決めるまでに、社内で話をいろいろと聞いたり、XRISMの資料を読んだりして、自分なりに調べました。最後は、「是非、XRISMに携わりたい」という気持ちになって、参加を決めました。

——元々のお仕事は?

出向元では、入社したときから宇宙用電子部品の試験・検査とかメーカの工場審査等をしていました。衛星プロジェクト関係では、例えば、月周回衛星「かぐや」など、衛星の開発支援も経験しました。「かぐや」での経験もあったので、そのときの経験がXRISMにお役に立てれば、という思いでした。

——XRISMに携わる前と後で、XRISMに対するイメージは変わりましたか?

変わりました!

携わる前は、宇宙科学研究所のミッションということで、メンバーの皆さんは“大学教授”の様な雰囲気で一緒に仕事を進めるのにちょっと敷居が高い気がしていたのですが、実際はとてもフレンドリーでした!

「かぐや」のときに、前島さん(現XRISMプロジェクトマネージャ)や南野さん(現S&MA総括(ISAS担当))とも一緒に関わらせて頂いたので、そういう意味でも心強かったです。

——XRISMプロジェクトでは、「S&MA」の業務を担当しているということですが、「S&MA」とは?

S&MAはSafety and Mission Assuranceの略で、安全とミッション保証をどのようにやっていくかということです。安全性や信頼性、品質管理を検証し、きちんと行われているか評価したりする業務です。XRISMに関して言えば、ASTRO-Hの運用断念を受けて強化された部分になります。

宇宙システムは「信頼性が高く、品質がよく、安全で、できるだけ長く運用する」ことが求められます。人に例えると、「生まれがよくて、育ちがよくて、健康で、長生きする」ってことと捉えています。

つまり、

生まれ・・・設計や使用している部品が良いこと

育ち・・・・製造工程を管理するしっかりとした仕組みがあり、それに従いきちんと製造されていること

健康・・・・軌道上の過酷な環境でも故障することなく正常に動いてくれること

長生き・・・設計寿命の間正常に動いてくれること

です。 実は、元上司の言葉の受け売りですが、私自身とても心に残っている言葉です(笑)。

XRISMの「生まれ、育ち、健康で長生き」をケアするのが自分の仕事だと思っています。

——日々の仕事内容は?

XRISM衛星に搭載される機器がきちんと製造されているかを確認しています。確認は、品質保証プログラム標準(※)等に基づいて設定した品質管理等のプログラム計画書に従い行います。

それから、XRISMプロジェクトで何か不具合が起きたとき、不具合の管理もしますし、その不具合とトラブルシューティングについて、他のプロジェクトに情報共有もします。こうすることで、他のプロジェクトで同じ不具合が再び起こることを未然に防げます。逆に、他のプロジェクトの不具合や海外衛星の情報を把握して、XRISMに活かせることは活かすようにしています。

不具合が発生するとメーカーさんも一緒になって、関係者の技術と知識を活かして、うまく品質保証の仕組みにのせていくのが私の仕事と考えています。

(※)品質保証プログラム標準は、ロケット・人工衛星の構成品はもとより、実験機器などロケット・人工衛星以外の開発の全段階を通じ、契約の相手方が計画し、実施する品質保証プログラムに関する要求事項をまとめた文書。

——XRISMは完成して打ち上がったASTRO-Hと多くの部分で同じ設計になっていると思います。それでも予期せぬ不具合が出てしまうのでしょうか?

同じと思っていても、詳細に調べていくと違っている部分があったりします。部品も材料はもとより、その製造設備や条件も変化していく、日進月歩ですから。

例えば、ある部材は、ASTRO-Hの時と同じ仕様で製造・試験されていましたが、機器に取り付けて試験をしたら不具合が出たことがありました。後になってわかったのですが、使っている部材でその製造過程における微妙な違いにより部材の特性も変わっていたということがありましたね(今は、問題の部材を交換し、不具合は解消済み)。

できるだけ不具合は未然に防ぎたいので、製造前の図面も丁寧に確認するようにしています。実績がある場合でも、トラブルになりそうな箇所があれば気付きとして指摘をするように心がけています。

不具合対応は何年やっても難しいですね。不具合って起こしたくて起こすわけではないですし、いつ起こるかわからない。ですから、衛星の開発中は落ち着かないです。

私のモットーでもありますが、難しいことに取り組む姿勢の一つに、「明るく悩む」というのがあります。この言葉も、別の衛星プロジェクトに携わっていたときに上司がおっしゃっていた言葉です。ちなみに、その上司のさらに上の先輩?の方のお言葉のようですが(笑)。

XRISMは技術的には難しい。でも、メンバーは明るく開発を進めています。みんなで「明るく悩む」を実践してるって感じています。

——不具合管理といってもいろいろやることがあると思います。自分でこなすことと、人に依頼すること両方あるでしょうから、その切り分けも大変そうです。

それは、確かに大変ですね。特に、他の人に依頼する場合や質問する場合は、意図を明確に伝えるように努めています。 スムーズにコミュニケーションとれることが仕事の肝なので、JAXA内の関連部署とか、メーカーさんのS&MA担当者とは連絡を取るよう努めています。

——人とのコミュニケーション能力も重要ですね。

その通り!衛星という”モノ”を作っていますが、たくさんの人間がチームを組んで作り上げていきますから、人とのコミュニケーションはとても重要と痛感しています。衛星開発はモノと向き合うのですが、やっぱり最後は人なのかな、という気がするときがあります。

業務を行う上で、誰かに「ちょっと聞きたい」ということは間々あって、聞きたいときに聞けるっていうのも大事だと思います。テレワークだと隣にも振り向いても誰もいないので、ちょっとしたことが聞けないというやりづらさはありますね。

——仕事の内容から、いろいろなメーカーさんやXRISMプロジェクトチームの人と仕事をする機会がありそうです。

そうですね。初めて一緒に仕事をするメーカーさんの場合、文化の違いも感じました。メーカーさん毎に、取り扱うものだけでなく、管理するときの考え方も完成までのスタンスも違います。
 違いがあることを理解した上で、JAXAからの押しつけではなく、メーカーさん自身が改善に気づいて、よりよく仕事を回せるようになることを心がけています。

——とても神経を使うお仕事ですが、不具合につながる事象や兆候を見逃さないコツや不具合を予見するのは、元々、得意だったのですか?

いえいえ、元々はそういうセンスはなくて、場数踏んで経験を積み、身につけました。

ただ、新型コロナの感染防止対策で、製造現場に行く機会が減り、新しいやり方で品質保証をしなければならない場面も増えました。
例えば、現物を見に行けない時は、検査・確認したいところを相手に伝え、写真で確認したりします。

分厚い手袋をした状態で何かを探すような歯がゆい感じがしています。今は、そこを頑張って、手探りで切り開いているような感じです。

——ストレスも多そうなお仕事です。どのようにリフレッシュされてますか?

以前は、バイクツーリングで気分転換してました。行き先は、遠くは福島、近くは千葉とか。食べ物がおいしいことは行き先を決める重要なポイントです(笑)。

最近は、音楽を聴いたり、本を読んだりがリフレッシュの方法かな。本では、「ニーチェ勇気の言葉」を心の処方箋としています。この本は写真も秀逸ですから、是非、読んでみてください。

音楽で好きなのは aiko とBABYMETAL。お勧めです。聴いたことがない方は一度、是非。

音楽って、人を救ってくれる力があると思っています。

——最後に読者へのメッセージをお願いします。

ASTRO-Hの運用断念を踏まえ、最善を尽くして開発しています。2022年度打ち上げ予定のXRISM。ご期待ください。

インタビュー日:2021年12月24日
インタビュアー・編集:堀内貴史・生田ちさと

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