X線分光撮像衛星XRISM │ JAXAX線分光撮像衛星XRISM

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インタビュー XRISMでの観測を通じて一緒に宇宙を楽しみましょう

プロジェクト・サイエンティストを務める松下恭子さん(東京理科大学)にお話を伺いました。インタビューシリーズの初回ということで、まずは、XRISMの紹介からスタートです。

高温ガスの運動を精密にとらえるXRISM

—— 他のX線天文衛星と比べたときのXRISMの特徴はどういったところでしょうか。

XRISMでは「マイクロカロリメーター(Resolve)」という検出器が搭載されます(*編集注)。そのおかげでX線のエネルギー分解能(X線の波長の決定精度)が今までのX線天文衛星よりも劇的に向上します。そうすると、X線を出しているガスの運動速度をドップラー効果で検出する場合、今までのCCDなどの半導体検出器ではおよそ秒速1000kmより速い運動のみがかろうじて分かる精度でしたが、Resolveではおよそ秒速100kmくらいの運動も余裕をもって検出できます。

例えば、私たちの天の川銀河の回転速度はおよそ秒速200kmですので、XRISMの精度をもってすれば、銀河くらいの規模のガスの運動が分かることになります。銀河から吹き出しているガス(銀河風)の運動などをとらえられるわけです。

*編集注:XRISMにはもう一つ搭載される観測機器があります。X線CCDカメラのXtendです。広い視野と精細な画像が特徴の観測機器です。

—— XRISMでは何を調べようとしていますか。

私は銀河・銀河団を専門に研究しているので、その観点からお話しします。現代の天文学では、銀河の中で星形成がどう行なわれてどのように止まるのか、という過程を明らかにすることが主要なテーマの一つになっています。

星を作るためには冷たいガスがたくさん必要ですが、重い星は生まれてすぐに超新星爆発を起こして死を迎えます。超新星爆発がたくさん起こると、銀河のガスが加熱されて星形成の条件が変わったり、ガスが銀河風となって失われて星形成が止まったり、星で作られた元素が銀河の外にばらまかれたりします。超新星残骸から銀河風、銀河の外にばらまかれた元素をXRISMで観測できれば大変面白いと思います。

また、ブラックホールが周りにどれだけ影響を及ぼすか、ということも調べられると期待しています。銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。ブラックホールに物質が落ち込むと、一部のガスは高速のジェットとなって外部に放出され、ブラックホールの周りの環境に影響を与えます。こうしたガスの速度もXRISMで観測できます。

それから、銀河の大集団で、宇宙最大の天体、「銀河団」がどう進化し、巨大化してきたかという手がかりが、「銀河団ガスの運動」という形で見えるのではと期待しています。銀河団は宇宙誕生直後から現在まで、非常に長い年月をかけてダークマター(暗黒物質)が重力で集まって、ようやくできた天体です。可視光の画像で見ると銀河が集まっているだけのように思われるかもしれませんが、この銀河団の中にも「銀河団ガス」と呼ばれる数千万度のガスが存在します。

—— 観測で難しい点、工夫する点はありますか。

人工衛星は太陽電池を常に太陽に向けておくことが一番大事ですので、太陽電池を太陽に向けた姿勢で観測できる範囲(=太陽から約90度離れた方角)の天体しか観測できません。そのため、たいていの天体は1年のうちに2、3か月の観測期間が2回めぐってきます。観測したい天体をいかに効率よく観測していくかが“肝”です。

ASTRO-Hでの経験を活かし、XRISMへ

—— XRISMはASTRO-Hの代替機と位置づけられていますが、XRISMとASTRO-Hの違いを教えてください。

XRISMは基本的にはASTRO-Hと似た衛星ですが、XRISMでは、ASTRO-Hの事故原因となった箇所が改善されています。また、ASTRO-Hが打ち上がった時点ですでに、X線天文学はASTRO-Hプロジェクト開始のころよりも進展していましたし、ASTRO-Hの初期観測でも成果が挙がっていました。それらを踏まえて、もう一度衛星の目的などを再定義し、XRISMは軟X線分光撮像観測に特化することにしました。

※ ASTRO-H (ひとみ):2016年2月17日に打ち上げられたX線天文衛星。衛星姿勢異常が直接の原因となり同年3月26日に通信異常が発生、4月28日に運用停止となった。

——XRISMのプロジェクト・サイエンティストに就任されています。どのようなお仕事でしょうか。

具体例でお話ししますね。まずプロジェクトを立ち上げる際は、どういう衛星をどういう目的で運用するかという検討をリードしました。プロジェクトが立ち上がった後、2020年秋頃からは、打ち上げ後の最初の半年間の初期観測フェーズで観測する天体の選定が大きな仕事でした。チーム内からの提案を集めて、その中から60天体を選びましたが、チーム内からの観測提案はそれ以上の数が挙がってきました。ですから、観測提案書もかなりのボリュームになり、それらを全部読んで審査するのは大変でした。

観測天体を選んだら、次は観測データの解析をどうするかという計画を練りました。また、XRISMでは初期観測の後はプロジェクト外の研究者からも観測提案を受け付けます。提案の受付や審査の方法など、観測提案の処理の仕方についても話し合いを行っています。

——プロジェクト・サイエンティストに就任された経緯をお教えください。

ASTRO-H(「ひとみ」、2016年打上げ)でのパブリケーションボード、サイエンスオフィスの責任者大橋隆哉先生(東京都立大学)の下でサイエンスチームの業務の補助をした経緯があり、XRISMではPrinciple Investigeator(研究主催者)の田代信先生(ISAS/JAXA、埼玉大学)から依頼されてプロジェクト・サイエンティストに就任しました。ASTRO-Hのサイエンスチームでは、ASTRO-Hのデータを使ってサイエンスの成果を創出するために皆でいろいろ頑張ってきました。でも、ASTRO-Hは、本格的な観測を始めようという矢先に運用停止になってしまい、悔いが残っています。そのため、今は、XRISMでのサイエンスを是非大きく成功させたいと思っています。

宇宙を楽しむ

—— 話は変わりますが、X線天文学に興味を持ったきっかけがあったのでしょうか?

私は天文学科の出身で、大学の学部の授業で星や銀河について学びました。大学院に進学するときに、私たちの研究室で博士を取った方がいらして、銀河の中や銀河団にはX線を出す高温ガスがいっぱいあって、それを調べるとこんなことが分かるという話をされたのです。その内容が自分には驚きだったんですね。それで面白そうだなと思ってX線天文の分野に進みました。

ちょうど「あすか」(ASTRO-D、1993〜2001年)が打ち上がる前で、私の修士論文は「あすか」のデータを使った研究で、博士論文も「あすか」でした。

—— 一人の研究者として、特に興味があるテーマはありますか。

私が大学院時代から取り組んでいるのが、銀河の化学進化です。XRISMでX線のエネルギーを精度よく決められるということは、さまざまな元素が放射する非常に弱い特性X線まで検出できることになります。

銀河団や銀河で、高温ガスの中にごくわずかに含まれる元素を検出できれば、その元素を作った星がどんなタイプの恒星だったか、どれくらいの数が存在したかが分かります。こうした研究を通じて、超新星が銀河のガスを加熱して銀河風を発生させ、さまざまな元素を宇宙にどう放出するかを網羅的に理解するのが目標です。

やはり学生さんと一緒に研究するのは楽しいので、XRISMのデータを学生さんと一緒に解析したり、プロジェクトに貢献した若手の方と一緒に研究して、結果を出せればなと思っています。

—— XRISMに期待されている方々に何か一言お願いします。

XRISMでの観測を通じて一緒に宇宙を楽しみましょう

インタビューした日:2021年8月30日
インタビュアー:中野太郎、
編集:堀内貴史・生田ちさと

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